CITRON

2015

野菜という生の素材を扱うオーガニックベジタリアンレストランを設計するうえで、空間においても素材を丁寧に扱うことを心がけた。

テナントは、都心の大変利便性の高い集合住宅の1・2 階である。しかし、もともとレストランを運営するように設計されていない空間において、厨房スペースやサービス動線を確保するのは簡単ではなかった。プランニングでは、コンパクトな空間で極力シンプルに動線を計画する努力を試みたが、既存の階段ではまったく納まらなかった。そのため新しく階段を製作することになり、階段は裏動線が確保できるようにデザインをすると同時に、必然的にスレンダーな構造を検討することになった。スチールにペイントという階段が、コスト的にも機能的にも、店舗の中で目立つボリュームになってしまう。それで、店舗デザイン全体において階段を一つのきっかけとしてディテールを組み立てた。

例えば照明器具や家具、エントランスまでスチールという素材を反復するように使用した。ショーケースとショーケースのための照明はスチールのアングル材を加工することでできているが、棚やエントランスの扉にも同様のディテールを反復している。エントランスから2 階に至るまで、材料のみならずディテールのつながりは、店舗としての一体感に寄与している。イスやタイル、照明器具の一部はクライアントがフランスから買い付けてきたものだ。そうしたアンティークは、レストランにしてはややラフすぎるスケルトン空間に彩りを与えている。