AZABU HILLS RESIDENCE

2024

東京という巨大な都市の真ん中にある住宅だからこそ、ホッとできるホーム感が大切です。落ち着きや静けさを意識し、そのための環境を作るうえでインテリアのデザイン、家具や照明、アートの選択を慎重に行っています。

東京の邸宅街として知られる南麻布の高台に立地するマンションのリノベーションプロジェクト。敷地は閑静かつ緑豊かな自然に恵まれた良好な環境であり、北側向きの住戸ではあるが、眺望がよく日中は安定した柔らかい光で満ちている。

南北に長い住居であるためその光を生かすことが重要になる。空間全体は明るいカラーパレットで考えると同時にマンションの立地や世帯層を考えるとしっとりとした落ち着きも必要であった。そんなことを考えている時、カリモク家具とのディスカッションの中でケヤキ材についての話を聞く機会があった。ケヤキ材は、古くから寺社仏閣の建材や高級家具用材として用いられてきたが、昨今では生活様式の変化に伴って需要が縮小し、有効に活用されているとは言い難い状況にあるという。この状況に対し、カリモク家具はケヤキ材の新たな活用方法を模索する中で、その木目や表情に着目し、家具用材として活用できないかということだった。ケヤキ材のサンプルを見たときに、そのストーリーと共に赤みを帯びた優しい色合いに、このプロジェクトとの相性の良さを感じてケヤキ材を使ったインテリアを作って行くことになった。

またカリモク家具との協働としてのプロジェクト、Karimoku Caseのケースの一つとすることで、空間に合わせて家具のデザインも行なっている。ソファー、椅子、コーヒーテーブルなどを新たにデザインしている。

設計においては、南北方向に長い平面計画を生かすために光や風を通す格子戸で分けながら空間を繋げていくことを意識し、通風がとれ家の隅々まで外の光が感じられるようにした。リビングとダイニングはまっすぐ平行に配置し、ダイニングを受け止める大きな壁によって家具は凛とした佇まいを醸し出している。大きなリビングダイニングを有効に使うべく、リビングから少し隠れたところにワークスペースを作ったり、キッチンとの間にカウンターテーブルを設けたりすることで、大きな空間を共有しながら多様な居場所を用意した。また、空間を整えていくうえで背景となる壁やニッチにはアートやスタイリングを配し、空間をより豊かなものとしている。アートはスタイリストと相談をし、インテリアに合わせて素材感や暖かみを感じられるようなものを選定した。

空間を印象的にしていた柔らかな光に呼応するべく、まず壁・天井の仕上げと色を決めた。さらにボリュームのあるソファをはじめ、テキスタイルの面積を増やしたり、和紙を使った照明を設えることで、ケヤキ材以外の素材は明るめのトーンで作りケヤキ材の力強い色とのバランスをとることで、ケヤキ材でつくられた家具はより印象的に見えてくると同時に、そのボリューム感のコントロールをしている。またケースにおいてはいつものことではあるのだが、置き家具のみならず、カリモク家具が整えた木材による内窓、建具、壁材が同等
のクオリティでできていることが空間の質を作り出している。

欅(ケヤキ)をキーマテリアルとして、インテリアは古民家と、モダンな住宅が合わさったような不思議な感覚を作り上げている。どこか洗練されすぎない感覚は、ゆったりとした気分を作り出している。都心の住まいとして私たちが求める、包容力を持ちながらも住む人の気持ちを優し包み込む空間になったのではないかと思っている。