dotcom coffee

2024

問屋街なども軒を連ね、東京の下町情緒があふれる浅草橋。この度私たちが長年の文京区小石川から移転した新事務所の1階に入るdotcom coffeeは、2019年に内装設計を手掛けたdotcom space Tokyoの系列店としてスペシャルティコーヒーに特化するカフェである。

目の前には桜の木がシンボルの公園や学校があり、オフィス街と下町が共存する住宅街の一角に建つ築55年のRC造のビルの1階は、既存の柱や梁を活かしてゾーニングを行った。正面の大きな3枚割りの扉から入った公園に面するエリアを客席とし、奥にはアイコニックなコーヒーマシーンが並ぶ大きなカウンターがお客様を出迎える。

横長のフレーム窓に沿うベンチにサイドテーブルを配し1~2人がゆったりと過ごせる席をはじめ、大家族のダイニングテーブルのような印象を与えるギャザリングテーブルは少人数から大人数まで程よい距離感で会話を楽しめ、既存の梁によるニッチな空間はゆったりと過ごせるソファ席とした。また、向かいの公園にスタッキングベンチを持っていき、犬の散歩の休憩や即席ピクニックのような楽しみ方もでき、多様な過ごし方ができるカフェとなっている。

あたたかく落ち着いた印象と同時に街とのエネルギーが行き交う空間とすべく、壁は黄味の左官で仕上げ、扉や家具はオーク材で統一し、壁面の腰高までの木リブパネルで空間にリズムを作っている。合わせて、照明や取っ手の金具は鉄を銅色に塗装し、仕上げの種類も色を最低限に絞ることであたたかみとともにすっきりとした印象を与える。

各エリアの過ごし方に合わせた壁沿いのベンチには吹きガラスによるシェードを用いたペンダント照明、ギャザリングテーブルの上には直接光源が見えない和紙の照明、ニッチのソファの空間の壁にはサギングという工法を利用したコンタクトレンズのようなパラボラ状のガラス照明は、すべてこのカフェのための特注である。1Fは石巻工房の家具を配し、このブランドならではのフォルムが空間に親しみをもたらし、石巻工房とコラボしたDynaudioのスピーカーからの音色は心地よさを誘う。

竣工した春に2枚の扉を開いたカフェの空間は開放感に溢れ、歴史や文化が混ざり合ったこの浅草橋エリアの住民に愛されるカフェとなるとともに、このエリアへ足を運ぶきっかけとなるカフェにもなれば嬉しく思う。